翌朝、小鳥のさえずりに目覚める。カーテンを開けると
向こうの山入端に朝日が映えている。すがすがしい朝だ。午前5時。
酸素は75のままだ。顔を洗って静かに朝の勤行を始める。

見る間に酸素が80を超えた。6時、酸素が90に迫っている。
看護婦さんが入ってきて、
「まあ酸素90なんて常人並じゃないの」
とさけんだ。

そんなもんか?安心したのか急に睡魔が襲ってきてベッドに横になる。
狸の嫁入り。なんじゃそら?どうも夢らしい。

子どもの頃のなこのようなとてもかわいい娘狸。森の中でトトロに出くわします。
その足元にこれまたとてもかわいいトトロの子がぼーっと突っ立っています。
おしゃまななこ娘は姉さんぶってトトロの子にちょっかいを出しますが、
トトロの子はすぐにお父さんの陰に隠れます。

そうこうしながらなこ娘はトトロの子の超能力を少しづつ引き出していきます。
そして二人は結婚しました。よく見るとトトロの子は私の息子健吾君でした。

「松村さん!松村さん!」
突然の大声に治は飛び起きた。
「大変酸素が56」
そう言って看護婦さんは病室を足早に出て行く。

なんてこった。至急大声でお題目をあげるとすぐに66さらに75へと上がった。
「あら、大丈夫そうね?」
看護師さんたちが戻ってきてあちこち確認し始めた。
そこになこが現れる。

「どうかしたの?」
「朝一番90で安心してベッドでまどろんでいたら突然松村さん!て起こされて」
「まあ」
「起こされていたのは向こうの松村さんで、酸素が56に急落してたんだ」
「そう、お題目あげなきゃね!」
「そのとおり」

二人は看護師さんたちが出ていくと克彦の枕元でお題目を上げ始めた。
仰向けの酸素マスク。呼吸は相変わらず。ヒュウ―カクン。
左の耳元で治が、右の耳元でなこが。不憫な子だ。直視すると涙が出そうだ。

1時間ほどたっただろうか。
突然なこが聞いてきた、
「おじさんはなぜ信心始めたの?」