「……まあ、可愛らしい。どうぞあがって下さいな。たいしたおかまいもできませんが」
一瞬、間があった、ような気がした。
けれど陸の母親はそれ以上何も言わず、陸の部屋へと向かうわたし達を微笑みながら見送っただけだった。
まるで絵に書いたような、優しい母親。
その実態は、ただの愛人に過ぎないというのに。
「お母さまに言ってなかったの? 付き合ってるって」
「だって誰にも言わないって、先輩との約束だったから」
「……ああ、そっか。そうだったね、ごめん」
陸の部屋は八畳くらいの、普通の部屋だった。きちんと整頓されていて、フローリングの床に物が落ちているなんてこともない。部屋のまん中に置かれた低いテーブルの前に腰を下ろしながら、わたしは自然と笑みをもらした。
そういえば、そんなことも言った。親にまで律儀に守ってくれているなんて、本当に可愛い。
一方で陸は、少し落ち着かない様子だった。初めて彼女を部屋にあげて、緊張しているのだろうか。そんなことはお構いなしに、わたしは陸の部屋を眺める。
初めて入る男の子の部屋は、当たり前だが、自分の部屋とは違う匂いがする。陸は男の子なのだと、今更ながらに思い出した自分に内心苦笑してしまう。

