きみが死ぬまでそばにいる

 
 少しだけ楽しみだった江の島旅行。でもそれは、恋人同士になった二人を見せつけられるなんて知らなかったからだ。

 ――いやだ。行きたくない。ずっと旅行の日が、来なかったらいい。

 しかしそんな時に限って、時間というのは早く過ぎる。
 あっという間に旅行当日、わたしは部員たちと共に、初夏の江の島駅に降り立った。
 ホームに降りた瞬間、真夏のような強い日射しに焼かれ、軽くめまいを覚える。
 目の前には初々しくはしゃぐ新入部員。道行くカップル、家族連れ、友達グループ、そして……
 何もかもが眩しくて嫌になる。本当に馬鹿みたいだ。失恋一つで動揺して。

「大丈夫? 紗己子ちゃん。もしかして体調悪いんじゃないの?」

 電車を降りてすぐ、声をかけてくれたのは長谷部先輩だった。
 どうやら顔に出てしまっていたようだ。誰にも知られてはいけない――と、わたしは慌てて笑顔を作った。
 こんなわたしでも、取り繕うのだけは得意なんだ。

「大丈夫です。少し暑くて」
「ああ、だよねぇ。先週あたりから急に。でも、週明けはまた気温が下がるらしいよ」
「そうなんですか……」
「でも大丈夫なら良かった。電車でもあまり喋ってないみたいだったから」

 それは、泉と部長をできるだけ視界に入れないことだけを考えていたからだ。
 付き合い始めた二人が、仲睦まじく隣り合わせに座って話しているのを見たいと思うほど、わたしはマゾではない。

「ちょっと寝不足だっただけですよ。ていうか、先輩そのバッグ可愛いですね。もしかして――」

 わたしが思い当たったブランド名をあげれば、長谷部先輩は嬉しそうに肯定した。彼氏からのプレゼントなの、と言って。
 その後、長谷部先輩とは他愛ない話をしながら目的地まで歩いた。だけど後になって、わたしは先輩と何を話したのか、全く思い出すことができなかった。