きみが死ぬまでそばにいる

 
 おかしいですよね、と言って陸は笑った。

「中学の時にようやく異常に気づいて、反発するようになりました。それからは割りと険悪で、成績も下がって、水泳もやめたし」
「未練はなかったの……? かなり強かったって聞いたけど」
「はは、そんなのありませんよ。泳ぐことは嫌いじゃないけど……全然、楽しくなかったから」

 そう言う陸は不自然なほど淡々としていて、まるでわざと感情を込めないようにしているみたいだった。
 わたしは陸の腕の中から離れて、その顔を正面から見る。そんなわたしに、彼は首をかしげた。

「先輩?」

 父母に愛されて、わたしの欲しいものは全部持っていると思っていた弟。わたしから盗んだ幸せを謳歌しているのだと思っていた――いや、そう思いたかっただけだ。そうでなければ、憎めそうになかったから。何の罪もない弟を、恨めそうになかったから。

「ごめん……」

 わたしはどこまでも愚かで醜い。そのことをただ実感させられた。
 わたしに、彼の側にいる資格があるのだろうか、とも。

「だから、謝らないで下さいよ。俺が母親と折り合い悪いのは全く先輩のせいじゃないし。それに、今すごく幸せなんです。こうして先輩が側にいてくれるから」
「陸……」

 わたしは思わず彼に手を伸ばし、自らその唇に深く口づけた。
 きみが望んでくれるなら、わたしは。

 ――そばにいる、から。