「すみません、なんか勘違いされちゃって…」

店員が上機嫌に去ると、
彼は申し訳なさそうにそう言った。

結局、あの店員は私達を恋人同士だと
勘違いしたまま行ってしまった。


私はさほど気にせず
当たり障りの無い会話を探した。


「2階建の一軒家の居酒屋なんて初めてです。
落ち着いたいい雰囲気のお店ですね。」


そう言うと、彼は嬉しそうに笑い
まるで実家を紹介するような親しみを込めて
お店のことを色々話してくれた。


私は彼の声を音楽を聴くような感じで聞いていた。


声は耳から入り、脳に到達する頃には
フワリと弾けて心地好い温度を放ち消えていった。


跡には何も残らない。


窓から見える暗い空と、
小雨を温かな色に変え続ける提灯、
馴染みの無い男の前でただ微笑みながら過ごす。


あまりにも滑稽だ。