~恋って何⁇~

まだ肌寒い。
冬を越したばかりの桜はもうすぐ
ピンク色に染まろうとしていた。

伊佐 湖春(いさ こはる)。中学校生活がスタートしようとしています。

朝からドキドキだった。
友達とか作るのは得意だったけど、
それは、仲のいい友達がいるから
できるのであって、私一人じゃ
何もできない。臆病者です。

クラス表の張り紙。
……由佳ちゃんがいない。

由佳ちゃんとは、
幼稚園からの幼なじみだ。
1番の理解者で、
私のことなんでも知ってるすごい子。

本当に尊敬するよ。
家事もできて、運動もできて、勉強もできて。
それに比べて、
私には何の取り柄もない。

だから、得意なことと聞かれた時に
すごく困る。
だから、大抵決まって、“笑うこと”
と書く癖がつくほどだ。

私は入学式の間、撃沈していた。
これから、やっていけるのか。
友達は作れるのか。
本気で心配していた。

「由佳ちゃーん!あたしもう
これからやっていける自信ないよ〜。」

そんな私を見て、
由佳ちゃんはふっと小さく笑った。

「また言ってるよ。入学式の間ずっと考えてたでしょ。お見通しなんだから。
湖春なら大丈夫だよ。すぐに友達も出来るよ。」

そんなの無理だ。
私がチキンなのは
由佳ちゃんも百も承知のはず。
まぁわかってて言ってるんだろうけど。
本気で悩みながら、家に帰った。

帰ったあとは、
念願の携帯買ってもらって
浮かれてそんなことすっかり忘れていたけれど。
買ってもらってすぐ、
先に買っていた由佳ちゃんの
電話番号とメールアドレスを入れた。
それ以外は、父と母。
私のアドレス帳は、まだ真っ白だった。

次の日、
学校に行くのは苦痛で仕方なかった。
それを察した由佳ちゃんは、
家まで迎えに来てくれた。

幼稚園児みたいに駄々をこねながら
学校へ自転車をこいで行った。
私たちの学校の自転車置き場は
クラス順だったので、
由佳ちゃんとは少し遠い場所だった。

隣にだれか背の高い子が登校してきた。
私は小柄なんで、
ほとんどの子はみんな大きいん
だけどね。
でも、一般的にも1年生にしては、
高い方だと思う。

1日目でまだ名前を知らなかった。
でも、きっと私は女の子の1番だから
この子はきっと、男の子の1番後ろなんだろうなとすぐ分かった。

知り合いでもなんでもなかったので、
朝の挨拶をするわけでもなく、通り過ぎていった。

まさか、
ここが出会いの場所になるなんて
このころの私は思ってもみなかった。

「あたし中学校入ったら、
恋愛したいっていう子の気持ちよくわかんないな。

だって、小学校から一緒の子だって
いっぱいいるし、
それに男の子にときめくとか
そういうのあんまりわかんない。」

由佳ちゃんは、
いつものようにあたしの顔をじっと見て話を聞いてる。
本当にちゃんと聞いてるのかな。
って思うくらい。

「そうだね。湖春はまだわかんなくてもいつかわかる時が来るよ。
誰かを好きになって、
ずっと一緒にいたいと思える人ができたら、きっと湖春も恋をしたいって思えるんじゃないかな。」

そうなのかな。
本当のところは実際、
恋どころか男の子に関して
好きの2文字すら脳内をよぎったことがない。

そんな私にとって
恋、愛と言われてもピンとこないのが
本心だ。
そんなことも
由佳ちゃんはきっと見え透いてるんだろう。
何も言わないけど。

私が由佳ちゃんに
“由佳ちゃんは
そんな人ができたことあるの?”
と聞こうとした時
2限目のチャイムが校舎に鳴り響いた。

「じゃあまたあとでね。湖春。」

「うん。また3組行くよ。」
ここで、由佳ちゃんとわかれた。

次の時間は、クラスで班を決めたり
係りを決めたり、委員を決めたり、
それから、先生から色々連絡される。
そんな時間だった。

割とみんなと話さなくていいし、
私的には都合が良かった。

そういえば、と思い出したのが、
今日自転車置き場で会った、
長身の出席番号が1番後ろの男の子。
あの子は、
他の子とは少し違うように感じた。
話してみたいと思った。

よく見てみると、
正直かなりのイケメンだ。
さっき教室にたくさんの女の子が
いたのが、納得できた気がした。

この日から、私は彼に話しかけたくて
仕方がなかった。
でも、彼はチャイムがなればすぐに帰るし、
朝もギリギリに登校してくるし、
席も遠いし、
話すタイミングが全く掴めなかった。

そのことを私は由佳ちゃんに話した。

「あたし、あの子と話してみたい。
なんか違うんだ。
他の男子とは少し何かが違うんだ。
でも、何が違うか全然わかんないや。」

「そっか。話してみたら
何かわかるんじゃないかな。
話しかけてみてごらんよ。」

「でも、タイミングがなくて。難しいんだ。」

「湖春が言ってる子って、脇谷(わきや)くんでしょ?
私の家の近くの塾に通ってるよ。
たまに見かけるの。このまえは火曜日に見たから、
火曜日に行ってるんじゃない?」

これは大チャンスだと思った。
神様が降りてきたんだと思った。

「行く!」
『これであの子と話せる。
というか、脇谷くんっ言うんだ。
あたし何にも知らないな。』
と、心で呟いた。
同時に、もやもやが消えると
ワクワクした気分になった。



続く