「行ってきまーすっ!!」
 斎藤 七海、高校1年生。今日の入学式に心を躍らせ、スキップで学校に向かう。
制服が可愛いという理由で選んだ高校は電車とバスで1時間弱。
同じ中学校出身でこの高校を受けた子は七海以外にいない。
つまり友達0からのスタートだ。
「たくさん友達作って、かっこいい彼氏作るんだ~♪」
そんなことを呟きながら、七海は高校へ向かう電車に乗り込んだ。
(うわぁ、朝ってこんなに満員なんだぁ…。)
初めて乗った満員電車。たくさんの人に押され潰されでヘロヘロになっていた時だった。
「大丈夫ですか?よかったら座ってください。」
「え…?」
いきなり声をかけられ顔を上げると、同じ制服の男子生徒がこちらに手を差し伸べてくれている。ネクタイの色が赤いから、恐らく先輩だろう。
「ありがとう…ございます…。」
戸惑いながらも彼の手を握る。そのままグイッと引き寄せられ、元々は彼が座っていたであろう席に優しく下ろされた。
「どういたしまして。」
優しい笑顔がこっちに向けられる。
『一目惚れ』
ろくに恋したことがない七海でもすぐに分かった。これが『一目惚れ』なんだと。
そう気づいた途端、顔に熱が集まってくる。顔が真っ赤になってくるのが見なくても感じる。
彼に赤い顔を見られるのが嫌で、駅に着くまでずっと下を向いていた。

 そう、これが私の初恋、まだ名前も知らなかった彼への恋の始まりだった。