「いや、だから…」

「今から会いたいと言ったあたしもあたしですね。

失礼しました」

言いかけた藤本をさえぎるように、櫻子は小さく会釈をするとその場から立ち去った。

マグカップを店員に返すと、櫻子はスターバックスを後にした。

「ったく、何だよ。

少しくらい上の空になったっていいだろうが、アホンダラ」

すでに後ろ姿が見えなくなった櫻子に毒づくように呟くと、藤本もスターバックスを後にした。

出たとたん、冷たい風が暖房で温まった躰を包み込んだ。

今夜は雪が降ると天気予報で言っていたなと思いながら、
「今日は朝貴と夕貴を呼んで鍋にするか」

藤本は呟いた後、コートのポケットからスマートフォンを取り出した。