グロテスクな顔のお岩さんに気持ち悪くなったところを夕貴に見られたことは、今ではいい思い出だ。

今となっては甘酸っぱくなった思い出に振り返っていたら、
「ダイダイさん?」

櫻子の呼ぶ声に、藤本は我に返った。

「えっ、ああ…」

今は櫻子と話をしていることを思い出した。

「特に用事がないなら帰っていいですか?」

そう言った櫻子に、
「えっ、帰る?」

藤本は聞き返した。

「ええ、帰りますよ。

ダイダイさん、さっきから上の空ですから」

ガタッと、櫻子は椅子から腰をあげた。

「えっ、ちょっと…」

呼び止めようとした藤本に、
「仕事で疲れているなら、無理をしない方がいいですよ」

櫻子は言った。