【短編】ボタンと珈琲




「…このワンピースを最初に褒めてくれた人に見せに来たんです」


わたし以外客がいない店内にポツリと響く。


こういう雰囲気の人には、どうしても普段言わないようなことを言いたくなるもので。


「そう。その人も君も、良いセンスだね」


マスターは驚いたりせずに、カップを洗いながらわたしの話を聞いてくれた。


「でしょう。
…でも会えなかったんです。
早くしないと、寒くなって上にコートを羽織らなくちゃいけなくなる」


今日会った店員の女の子がファーのティペットを身につけていたことを思い出す。


好きなんだ、と気づいたことに満足してる場合じゃないんだ。

…はやく会って、話をしたい。
彼のことを、知りたい。