きっかけは偶然の出来事だった。
席が近くなり、話しかけるタイミングができたんだ。

ある日、沙紀の消しゴムが俺の足元に転がったこと。


俺がゆっくりとその消しゴムを拾って、沙紀に手渡した。



「ありがとう、末岡くん」



最初は俺の苗字“末岡”で呼ばれた。
今じゃ“雅人”だけど、あの頃は本当に初対面みたいなふたりだった。



「いや、いいよ」



精一杯笑った。
印象付けてほしかった。

末岡の笑顔を、憶えてほしかった。
それだけだった。ただ、それだけ。


心に決めた。
俺はもっと沙紀に近づくんだと。