沙紀は腹を刺した。
左胸を刺すべきところだが、やはり怖かったのか。
いや、バカなだけなのか。
俺は笑いもしなかった。
泣きもしなかった。
ただ、呆然とその姿を見ていた。
ずっと。
「…雅人!…救…急…車…をっ…!!」
母さんの声でようやく頭が回った。
沙紀が目をつむって倒れて、俺一人立っていた。
呆然と立っていた。
母さんがなんとか受話器を手に取り、渡してくれた。
すぐに救急車を呼び、沙紀の腹に刺さった包丁はどうしようもなかった。
その包丁を抜くことが怖かった。
血が噴き出てくるのが。
そして俺が殺人未遂犯として疑われることが。


