2000年4月

「一夜」

優しい声が耳を振動させ私はゆっくりと目を開ける。
目の前には陽だまりのような温かい笑みを浮かべる彼。

「…朝日」

確かめるように感じるように掠れた声を出す。
朝日は私の手を取り微笑んでくれた。

「大丈夫。一夜はずっと生きてるよ」

だが、その言葉が嘘なのは分かっていた。
だからいつの間にか温かい笑みの中に悲しさが見えてきて、認めたくなくて目を逸らした。

そんな私の心の中が分かったかのように、朝日は手を離した。

「…じゃあ、また明日来るね。」
「…うん」

しんと静まり返る病室。
また明日。
私にはその明日が来ないかもしれない。
もう何もかも忘れてしまうかもしれない。

「死にたくないよっ、…!」

叫んだはずの声が掠れて誰にも届かず消える。
ふと、ひと粒の涙が零れた。




そして、私はその日誰もいない病室で静かに息を引き取った。

14歳という短い命の中に朝日とのたくさんの思い出を収めて。