あたしはふるふると横に首を振った。
「仕方ないよ。忙しそうだもんね」
「まあ、ああいう職業だからな。それに、二人とも自由人だし」
どこか寂し気にそう言うリュウくんを見て、あたしは少し切なくなった。
この間、彼のお母さんの病院に行った時の事を思い出した。
あの時の、彼女の顔は、紛れもなく、母親のそれだった。
それに、どこか少し安心している自分がいた。
その事実に、彼はどれだけ気づいているのだろうか。
あたしは玄関先でそんな事を考えていた。
「とりあえず、行くぞ」
「えっ?」
てっきり、家で過ごすものだと思っていたあたしは、なんだか拍子抜けをしてしまった。
「うちで過ごしたかったのか?」
少し意地悪な笑みを浮かべ、リュウくんがあたしに言う。
「そ、そんな事思ってないよ!」
必死のあたしの照れ隠しに、リュウくんはすぐさま優しい笑みになり、
「そうだよな。だから、そんな可愛いカッコしてきてくれたんだろ?」
そう照れる様子もなく言った。
これだから、リュウくんにはかなわない。
その笑顔で、全てを無かった事にできるくらい、許せてしまうくらい、安心できる笑みなのだから。
でも、出かけるとしても、一体どこに行くというのだろう?
何も聞かされていない身としては、とても不安なのだが…。
リュウくんはもう用意が終わっていたようで、すぐに出られる状態だと言った。
「どこに行くの?」
あたしは思わず聞いてしまった。
「まだ、内緒」
差し出された手を握りながら、あたしは、次はどこに連れて行ってくれるのだろう、と、半ば不安な、だけど楽しみな、ワクワクした緊張感に包まれていた。
その時の彼の優しい笑顔は、相変わらず、キラキラと輝いていた。
とりあえず電車に乗り、連れていかれたのは、何ともリュウくんに似つかわしくない場所だった。
テーマパークだったのだ。
「え?こんな場所。リュウくん、来るんだ?」
思わず、そんな言葉が口から飛び出てしまうくらい、あたしは意外性を隠せなかった。
「オレが来るわけじゃねーよ。女の子は、こういう所、好きだろ?」
そりゃ、そうか。
一人で来ても、何も楽しい場所ではないと思う。
しかも、男性が一人で…。
つい想像してしまったが、それはそれで面白いかもしれない、と、少し笑ってしまった。
「何笑ってんだよ」
リュウくんは照れ隠しか、少し怒ったような表情を見せ、あたしの頭をくしゃくしゃ、と撫でた。
それが、あたしはなんだか、可愛いな、と思ってしまった。
当の本人は心外だろうな、と思い、あたしは黙っておいた。
が、内心、あたしへの気遣いなんだろうな、と、嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「ありがとう、リュウくん」
あたしは彼を笑顔で見上げた。
彼のあたしを握る手の強さが、その瞬間、強くなった。
「大輪花は、ずりーよ」
「え?なんで?」
その握る手の強さにドキドキしながら、あたしは尋ねてみた。
すると彼は、
「そんな可愛い顔されたら、どうしてやったらいいのかわからなくなる」
そう言うと、あたしをじっと見据えた。
その表情は、思わず同性でもときめいてしまうんじゃないか、というくらい、真剣な、男性としての、顔だった。
あたしは咄嗟に視線を背けた。
が、背中を引き寄せられ、強引にそちらに向けさせられる。
そして、やはり…キスをされた。
この間のとは違う、とても熱を帯びた、熱いキス。
頭の中がボーっとする程に、何も考えられなくなるほどに、それは、濃厚で、愛情に満ちていた。
「こうなるの、ずっと抑えてたのによ…。だから、外に連れ出したのに…」
その悲痛な言葉を発する彼の表情は、悲痛の中にも色気がにじみ出ていた。
あたしはただ、その表情から目を反らせず、ドキドキするばかりだった。
なんて色っぽい顔をするんだろう…。
あたしは彼から目が離せなくなった。
「でもさ、せっかくここ選んでくれたんだから、今日はここで楽しもう!」
あたしは照れ隠しと、リュウくんのその心遣いに感謝をし、今日は思い切り楽しもうと決めた。
でも、あたしが選んでくれた服を気に入ってくれてよかった。
それだけでも、この間勇気を出した甲斐があるというものだ。
聖羅ちゃんと絵摩ちゃんには、とてもお世話になってしまったけれど…。
そして、それをちゃんと真正面から見てくれた、リュウくんにも感謝した。
考えてみれば、私服を見せるのはこれが初めてだ。
それはそれでプレッシャーだった。
これから休みの日、どんな格好をしてデートに臨めばいいのだろう?
普段はジーンズしか履かないあたしが、ワンピースなんて。
自分で考えても、とても違和感のある格好だ。
それに、毎回デートの度に、服を買いに行かなければならないのか?
スカートは、制服と、この洋服、そして数える程しか持っていなかった。
だから、次回からのデートがとても不安になってしまった。
そんな事を考えているとは恐らく知らないであろうリュウくんは、あたしの手を引っ張り、色々とアトラクションを周ってくれた。
到底女の子しか好まないだろう、というものにまで付き合ってくれた。
根っからのレディーファーストなんだろうな。
女の子慣れしている感じが、すごく伝わってくる。
それに比べてあたしは…。
連れて歩いてもらうのが精一杯、リュウくんに釣り合っているのか、リュウくんは一緒に歩いて恥ずかしくないのか、そればかりが気になっていた。
楽しかったけれど、とても心底楽しんでいます、という表情はしていなかったと思う。
それでもリュウくんはまるで子供のように、はしゃいで回っている。
あたしは、周りの目と彼の気遣いばかりが気になり、作り笑いを作るのが精一杯だった。
「大輪花、大丈夫か?」
そう、あたしの顔を覗き込んで、リュウくんが心配してくれる。
「え?具合は悪くないよ?」
「そうか。ちょっと、座るか」
お昼も少し過ぎた頃、彼は足を止め、何か食べるものを物色し、あたしを近くにあったフードコートの席に座らせ、何点か飲み物と一緒に食べ物を持ってきた。
「ほら。何がいいかわかんなかったから、適当に買ってきたぞ」
そう言って目の前に差し出たのは、抹茶ラテだった。
あたしが一番好きな飲み物だ。
それを置かれた瞬間、あたしは咄嗟に彼を見上げた。
すると彼はにっこりと笑い、
「それ、いつも飲んでるやつだろ。これだと間違いないかと思って」
と、あたしに言ってくれた。
リュウくんの心遣いが、すごく伝わってきた。
あたしの、こんなところまで、彼は見ていてくれたのだ。
あたしすら気づかない間に。
この人の洞察力はすごい。
こんな細かいところまで気を配ってくれるんだ。
そして、他の食べ物を見てみても、あたしがファーストフードで頼むような食べ物をしっかりと見ていてくれたんだな、といったような物たちがずらり、と並んでいた。
「リュウくん…コレ…」
「ああ。これもそうかな。オレも好きなものばっかだったから、ちょうどいいと思ってさ」
そう、元気づけてくれようとしているのがわかった。
「…ごめんね…」
あたしは、あまりの自分の不甲斐なさに、そんな言葉しか出て来なかった。
「なんか、元気なくね?と、思ってさ。オレのあの言葉が気になっているなら、それは気にしなくて…」
「そうじゃないの!」
「ん?違うのか?」
あたしは、それを精一杯に否定した。
本当に、そうじゃない。
ただ、あまりにも自分に自信がないだけだ。
「あたし…リュウくんに全然…似合ってないんじゃ…」
そう言うのがいっぱいいっぱいで、あたしは言葉に詰まってしまった。
それ以上何かを言うと、涙が出てきてしまいそうだった。
だって、その辺を歩いている女の子を見ても、あたしよりもずっとずっと、可愛らしくて、ずっと女の子らしい。
見ていてとても微笑ましい。
でもあたしは…。
リュウくんという素敵な彼に、釣り合っているとは到底思えない。
周りの視線が気になって仕方ない。
そんなあたしの気持ちを汲み取ったかのように、彼はあたしに、
「そんなくだらない事気にしてんの?」
そう、明るく言い放った。
くだらない??
あたしは、真剣にこんなに悩んでいるのに…。
「周りがどー見てようと、いいじゃん。オレは大輪花が好きなんだし、そもそも、似合うとか似合わないとか、誰が決めるんだよ」
「そりゃ…そうだけど…」
リュウくんにはわからないのだ。
恵まれた風貌で、自信のある出立で、いつもキラキラと輝いている。
そんな彼に、あたしの滑稽さなんて、わかりはしないのだ。
あたしはまるで、見比べられているような感じが毎日抜けなくて、今、それが誇張されてしまったように感じた。
「リュウくんはさ…」
「ん?」
「かっこいいし、すごく素敵なのに、あたしは…」
「ばぁか」
「…え?」
あたしの気持ちなんて、リュウくんにはわからないよ…。
そう、あたしが言いかけたその時、その言葉は、彼によって遮られてしまった。
きょとんとして彼を見上げるあたしに、リュウくんは、
「そんな見た目とか、そんなんで判断する奴、オレは引くね」
「そんな…」
「だってそうだろ?そいつの本質を見てないんじゃん。大輪花は、飾り物じゃない。オレの引き立て役でもない。それに、」
「…それに?」
「お前の良さはオレだけが知ってる、大輪花じゃなきゃやなんだよ」
びっくりしすぎて、あたしは言葉を失った。
涙が一筋、堪らずに流れ落ちてきているのがわかった。
この人は、すごく、大人だ。
あたしなんかより、ずっとずっと、その人の本質を見ぬこうとしている。
あたしは、くだらない事ばかりにとらわれすぎて、リュウくんをちゃんと見ようとしていただろうか。
何せ自分に自信がなさ過ぎて、どう見られているのか、そればかりを気にしすぎるようになってしまったのではないか?
「だから、そんな事気にすんなって」
そう言われてしまうと、本当にそのとおりなんじゃないかと思えるから不思議だ。
リュウくんは、あたしを、ちゃんと見ようとしてくれている。
あたし、という人間を。
だから、こんなにも、あたしの事を考えてくれているんだ。
あたしが、自分に自信を持てない事を、ちゃんと知ってくれていた。
だから、あたしは、リュウくんを好きになったのかも知れない。
「それに」
彼が付け足すように言った。
「何?」
「オレを孤独から救ってくれた」
「…ほんとに?」
そのあたしの問いに、彼は大きく頷いた。
「オレさ、デートでこういうトコ来るの、実は夢だったんだよな」
「え!?」
「意外だろ」
意外過ぎて言葉も出なかった。
いつもクールなリュウくんの口からは、想像もできない言葉だったからだ。
「ずっと親と来た事もなかった。彼女ができた事もなかったし、作ろうとも思わなかった。オレを理解できるのなんていなかったしな。でも、大輪花は、違った。オレを、知ろうとしてくれた」
「リュウくん…」
「そうだろ?それにさ、お前とは、距離が近い気がしてたんだ。最初から」
そうだったんだ…。
あたしは、遠くにいるような気しかしていなかったけど。
手の届かない、キラキラした存在だとばかり、思っていたけれど。
「シャープ…」
「え?」
「リュウくん、あたしがあげたシャープ…まだ、使ってくれてるんだ、って思ってた」
「ああ。あれは、単に筆記用具が不足してたからな」
そう笑ってごまかすところも、少し意地悪で、あたしは好きだな、と思った。
「あれのお礼も、お前になにもしてなかったからな」
「そんな、お礼なんていいんだよ」
「シャープだけじゃない。オレに、こんな気持ちをくれた事。オレと、ここに来てくれた事。オレを、知ろうとしてくれた事。全部に、感謝してるんだ」
リュウくんは、あたしの手を徐に握った。
「だから、こないだみたいな事があっても、オレは全力で、お前を守ってやる。お前から、笑顔を奪うやつは全て、排除してやる」
「仕方ないよ。忙しそうだもんね」
「まあ、ああいう職業だからな。それに、二人とも自由人だし」
どこか寂し気にそう言うリュウくんを見て、あたしは少し切なくなった。
この間、彼のお母さんの病院に行った時の事を思い出した。
あの時の、彼女の顔は、紛れもなく、母親のそれだった。
それに、どこか少し安心している自分がいた。
その事実に、彼はどれだけ気づいているのだろうか。
あたしは玄関先でそんな事を考えていた。
「とりあえず、行くぞ」
「えっ?」
てっきり、家で過ごすものだと思っていたあたしは、なんだか拍子抜けをしてしまった。
「うちで過ごしたかったのか?」
少し意地悪な笑みを浮かべ、リュウくんがあたしに言う。
「そ、そんな事思ってないよ!」
必死のあたしの照れ隠しに、リュウくんはすぐさま優しい笑みになり、
「そうだよな。だから、そんな可愛いカッコしてきてくれたんだろ?」
そう照れる様子もなく言った。
これだから、リュウくんにはかなわない。
その笑顔で、全てを無かった事にできるくらい、許せてしまうくらい、安心できる笑みなのだから。
でも、出かけるとしても、一体どこに行くというのだろう?
何も聞かされていない身としては、とても不安なのだが…。
リュウくんはもう用意が終わっていたようで、すぐに出られる状態だと言った。
「どこに行くの?」
あたしは思わず聞いてしまった。
「まだ、内緒」
差し出された手を握りながら、あたしは、次はどこに連れて行ってくれるのだろう、と、半ば不安な、だけど楽しみな、ワクワクした緊張感に包まれていた。
その時の彼の優しい笑顔は、相変わらず、キラキラと輝いていた。
とりあえず電車に乗り、連れていかれたのは、何ともリュウくんに似つかわしくない場所だった。
テーマパークだったのだ。
「え?こんな場所。リュウくん、来るんだ?」
思わず、そんな言葉が口から飛び出てしまうくらい、あたしは意外性を隠せなかった。
「オレが来るわけじゃねーよ。女の子は、こういう所、好きだろ?」
そりゃ、そうか。
一人で来ても、何も楽しい場所ではないと思う。
しかも、男性が一人で…。
つい想像してしまったが、それはそれで面白いかもしれない、と、少し笑ってしまった。
「何笑ってんだよ」
リュウくんは照れ隠しか、少し怒ったような表情を見せ、あたしの頭をくしゃくしゃ、と撫でた。
それが、あたしはなんだか、可愛いな、と思ってしまった。
当の本人は心外だろうな、と思い、あたしは黙っておいた。
が、内心、あたしへの気遣いなんだろうな、と、嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「ありがとう、リュウくん」
あたしは彼を笑顔で見上げた。
彼のあたしを握る手の強さが、その瞬間、強くなった。
「大輪花は、ずりーよ」
「え?なんで?」
その握る手の強さにドキドキしながら、あたしは尋ねてみた。
すると彼は、
「そんな可愛い顔されたら、どうしてやったらいいのかわからなくなる」
そう言うと、あたしをじっと見据えた。
その表情は、思わず同性でもときめいてしまうんじゃないか、というくらい、真剣な、男性としての、顔だった。
あたしは咄嗟に視線を背けた。
が、背中を引き寄せられ、強引にそちらに向けさせられる。
そして、やはり…キスをされた。
この間のとは違う、とても熱を帯びた、熱いキス。
頭の中がボーっとする程に、何も考えられなくなるほどに、それは、濃厚で、愛情に満ちていた。
「こうなるの、ずっと抑えてたのによ…。だから、外に連れ出したのに…」
その悲痛な言葉を発する彼の表情は、悲痛の中にも色気がにじみ出ていた。
あたしはただ、その表情から目を反らせず、ドキドキするばかりだった。
なんて色っぽい顔をするんだろう…。
あたしは彼から目が離せなくなった。
「でもさ、せっかくここ選んでくれたんだから、今日はここで楽しもう!」
あたしは照れ隠しと、リュウくんのその心遣いに感謝をし、今日は思い切り楽しもうと決めた。
でも、あたしが選んでくれた服を気に入ってくれてよかった。
それだけでも、この間勇気を出した甲斐があるというものだ。
聖羅ちゃんと絵摩ちゃんには、とてもお世話になってしまったけれど…。
そして、それをちゃんと真正面から見てくれた、リュウくんにも感謝した。
考えてみれば、私服を見せるのはこれが初めてだ。
それはそれでプレッシャーだった。
これから休みの日、どんな格好をしてデートに臨めばいいのだろう?
普段はジーンズしか履かないあたしが、ワンピースなんて。
自分で考えても、とても違和感のある格好だ。
それに、毎回デートの度に、服を買いに行かなければならないのか?
スカートは、制服と、この洋服、そして数える程しか持っていなかった。
だから、次回からのデートがとても不安になってしまった。
そんな事を考えているとは恐らく知らないであろうリュウくんは、あたしの手を引っ張り、色々とアトラクションを周ってくれた。
到底女の子しか好まないだろう、というものにまで付き合ってくれた。
根っからのレディーファーストなんだろうな。
女の子慣れしている感じが、すごく伝わってくる。
それに比べてあたしは…。
連れて歩いてもらうのが精一杯、リュウくんに釣り合っているのか、リュウくんは一緒に歩いて恥ずかしくないのか、そればかりが気になっていた。
楽しかったけれど、とても心底楽しんでいます、という表情はしていなかったと思う。
それでもリュウくんはまるで子供のように、はしゃいで回っている。
あたしは、周りの目と彼の気遣いばかりが気になり、作り笑いを作るのが精一杯だった。
「大輪花、大丈夫か?」
そう、あたしの顔を覗き込んで、リュウくんが心配してくれる。
「え?具合は悪くないよ?」
「そうか。ちょっと、座るか」
お昼も少し過ぎた頃、彼は足を止め、何か食べるものを物色し、あたしを近くにあったフードコートの席に座らせ、何点か飲み物と一緒に食べ物を持ってきた。
「ほら。何がいいかわかんなかったから、適当に買ってきたぞ」
そう言って目の前に差し出たのは、抹茶ラテだった。
あたしが一番好きな飲み物だ。
それを置かれた瞬間、あたしは咄嗟に彼を見上げた。
すると彼はにっこりと笑い、
「それ、いつも飲んでるやつだろ。これだと間違いないかと思って」
と、あたしに言ってくれた。
リュウくんの心遣いが、すごく伝わってきた。
あたしの、こんなところまで、彼は見ていてくれたのだ。
あたしすら気づかない間に。
この人の洞察力はすごい。
こんな細かいところまで気を配ってくれるんだ。
そして、他の食べ物を見てみても、あたしがファーストフードで頼むような食べ物をしっかりと見ていてくれたんだな、といったような物たちがずらり、と並んでいた。
「リュウくん…コレ…」
「ああ。これもそうかな。オレも好きなものばっかだったから、ちょうどいいと思ってさ」
そう、元気づけてくれようとしているのがわかった。
「…ごめんね…」
あたしは、あまりの自分の不甲斐なさに、そんな言葉しか出て来なかった。
「なんか、元気なくね?と、思ってさ。オレのあの言葉が気になっているなら、それは気にしなくて…」
「そうじゃないの!」
「ん?違うのか?」
あたしは、それを精一杯に否定した。
本当に、そうじゃない。
ただ、あまりにも自分に自信がないだけだ。
「あたし…リュウくんに全然…似合ってないんじゃ…」
そう言うのがいっぱいいっぱいで、あたしは言葉に詰まってしまった。
それ以上何かを言うと、涙が出てきてしまいそうだった。
だって、その辺を歩いている女の子を見ても、あたしよりもずっとずっと、可愛らしくて、ずっと女の子らしい。
見ていてとても微笑ましい。
でもあたしは…。
リュウくんという素敵な彼に、釣り合っているとは到底思えない。
周りの視線が気になって仕方ない。
そんなあたしの気持ちを汲み取ったかのように、彼はあたしに、
「そんなくだらない事気にしてんの?」
そう、明るく言い放った。
くだらない??
あたしは、真剣にこんなに悩んでいるのに…。
「周りがどー見てようと、いいじゃん。オレは大輪花が好きなんだし、そもそも、似合うとか似合わないとか、誰が決めるんだよ」
「そりゃ…そうだけど…」
リュウくんにはわからないのだ。
恵まれた風貌で、自信のある出立で、いつもキラキラと輝いている。
そんな彼に、あたしの滑稽さなんて、わかりはしないのだ。
あたしはまるで、見比べられているような感じが毎日抜けなくて、今、それが誇張されてしまったように感じた。
「リュウくんはさ…」
「ん?」
「かっこいいし、すごく素敵なのに、あたしは…」
「ばぁか」
「…え?」
あたしの気持ちなんて、リュウくんにはわからないよ…。
そう、あたしが言いかけたその時、その言葉は、彼によって遮られてしまった。
きょとんとして彼を見上げるあたしに、リュウくんは、
「そんな見た目とか、そんなんで判断する奴、オレは引くね」
「そんな…」
「だってそうだろ?そいつの本質を見てないんじゃん。大輪花は、飾り物じゃない。オレの引き立て役でもない。それに、」
「…それに?」
「お前の良さはオレだけが知ってる、大輪花じゃなきゃやなんだよ」
びっくりしすぎて、あたしは言葉を失った。
涙が一筋、堪らずに流れ落ちてきているのがわかった。
この人は、すごく、大人だ。
あたしなんかより、ずっとずっと、その人の本質を見ぬこうとしている。
あたしは、くだらない事ばかりにとらわれすぎて、リュウくんをちゃんと見ようとしていただろうか。
何せ自分に自信がなさ過ぎて、どう見られているのか、そればかりを気にしすぎるようになってしまったのではないか?
「だから、そんな事気にすんなって」
そう言われてしまうと、本当にそのとおりなんじゃないかと思えるから不思議だ。
リュウくんは、あたしを、ちゃんと見ようとしてくれている。
あたし、という人間を。
だから、こんなにも、あたしの事を考えてくれているんだ。
あたしが、自分に自信を持てない事を、ちゃんと知ってくれていた。
だから、あたしは、リュウくんを好きになったのかも知れない。
「それに」
彼が付け足すように言った。
「何?」
「オレを孤独から救ってくれた」
「…ほんとに?」
そのあたしの問いに、彼は大きく頷いた。
「オレさ、デートでこういうトコ来るの、実は夢だったんだよな」
「え!?」
「意外だろ」
意外過ぎて言葉も出なかった。
いつもクールなリュウくんの口からは、想像もできない言葉だったからだ。
「ずっと親と来た事もなかった。彼女ができた事もなかったし、作ろうとも思わなかった。オレを理解できるのなんていなかったしな。でも、大輪花は、違った。オレを、知ろうとしてくれた」
「リュウくん…」
「そうだろ?それにさ、お前とは、距離が近い気がしてたんだ。最初から」
そうだったんだ…。
あたしは、遠くにいるような気しかしていなかったけど。
手の届かない、キラキラした存在だとばかり、思っていたけれど。
「シャープ…」
「え?」
「リュウくん、あたしがあげたシャープ…まだ、使ってくれてるんだ、って思ってた」
「ああ。あれは、単に筆記用具が不足してたからな」
そう笑ってごまかすところも、少し意地悪で、あたしは好きだな、と思った。
「あれのお礼も、お前になにもしてなかったからな」
「そんな、お礼なんていいんだよ」
「シャープだけじゃない。オレに、こんな気持ちをくれた事。オレと、ここに来てくれた事。オレを、知ろうとしてくれた事。全部に、感謝してるんだ」
リュウくんは、あたしの手を徐に握った。
「だから、こないだみたいな事があっても、オレは全力で、お前を守ってやる。お前から、笑顔を奪うやつは全て、排除してやる」

