「そうね。ゆっくり見つければいいわよ。何も、焦る事はないんだから」
母はそうにっこり笑って言うと、目の前のケーキを平らげた。
「そういえば、新しい病院はどうだったの?良さそうなところ?」
「あ、うん。キレイだったし、先生も親身になってくれたよ。あたし、子宮内膜症かもって。それに、排卵障害あるかも、だって」
そう母に告げた途端、母の顔色が変わった。
「排卵障害…?」
「うん。なんかよくわからないけど、そう言われたよ。一番効くのはピルだって」
「…そうなの」
あたしは突然変わった母の表情が非常に気になった。
排卵障害というもの自体、どのようなものなのかがあたしにはよくわからなかった為、なぜそのような表情になったのかがどうしても解せなかったのだ。
「どうかしたの?」
とあたしが尋ねてみると、母は、
「ううん。ちょっと…気になってね。かなりの重症なんじゃないかって」
「そうなの?」
「そうね…。そう考えると、生理が来てからのあんたの症状に、全て合点がいくのよ。だから、本当は前からそうだったんじゃないかな、ってね」
「そうなんだ」
「実は、母さんも持ってたのよ。だから、遺伝じゃないといいんだけど…」
「そうなの?初耳」
「そりゃね。初めて話したもの」
母は、無理に笑顔を作ってあたしに向けた。
「排卵障害でずっと不妊治療しててね。治療してからやっと5年目であんたができたの」
「そうだったんだ…」
あたしは、そんな母の苦労も知らずに生きて来たんだ…。
あんなに明るく振舞っているけど、母は母で辛かったんだな…。
そう思うと、母は何て強いのか、と、感心してしまった。
不妊治療は、すごく辛い治療だと聞く。
どんな感じなのかはわからないけれど、薬をすごく使ったり、毎週病院に通ったり。
あたしのレベルではない気は、していた。
だから、あたしはこの時初めて、母を尊敬した。
「母さん」
「なに?」
「あたしを…辛い思いして産んでくれて、ありがとうね」
自然にあたしの口からそんな言葉がこぼれて来た。
「何言ってんの。気持ち悪いからやめてよ」
それは、母の強がりと照れ隠しなのだという事は、わかっていた。
母の目に、少し光るものが見えたからだ。
あたしはケーキを食べ終えると、食器を洗い、自室へと戻った
ただひとつ、「彼氏の母」の病院だ、という事は、言わずにおいた。
母親とは、誰しも苦労しているものなのだ。
母が子を想う気持ちは、その母親にしかわからないだろう。
それを、わかるようになるには、自分が同じ立場に立たないといけない。
そう、あたしは無意識に感じ取っていた。
リュウくんのお母さんも、息子の事を心配していた。
何も思っていないわけではなかった。
それは、もしかしたら、彼にもわかっているのかも知れない。
ただ、気づかないふりをしているだけかも知れない。
親子とは、素直になれる時もあれば、なれない時もある。
そっちの方が多いかも知れない。
だから、反発したり、反抗したり。
お互いの気持ちを素直には、ぶつけられないのだ。
それはでも、自然の流れだ。
そうやって、お互いに歩み寄り、知っていき、思いやれるようになる。
それが成長なんじゃないか、あたしはその時そう思った。
母とは強い。
母は、偉大だ。
あたしは、こんな「母」になりたいと、その時に、思った。
母はそうにっこり笑って言うと、目の前のケーキを平らげた。
「そういえば、新しい病院はどうだったの?良さそうなところ?」
「あ、うん。キレイだったし、先生も親身になってくれたよ。あたし、子宮内膜症かもって。それに、排卵障害あるかも、だって」
そう母に告げた途端、母の顔色が変わった。
「排卵障害…?」
「うん。なんかよくわからないけど、そう言われたよ。一番効くのはピルだって」
「…そうなの」
あたしは突然変わった母の表情が非常に気になった。
排卵障害というもの自体、どのようなものなのかがあたしにはよくわからなかった為、なぜそのような表情になったのかがどうしても解せなかったのだ。
「どうかしたの?」
とあたしが尋ねてみると、母は、
「ううん。ちょっと…気になってね。かなりの重症なんじゃないかって」
「そうなの?」
「そうね…。そう考えると、生理が来てからのあんたの症状に、全て合点がいくのよ。だから、本当は前からそうだったんじゃないかな、ってね」
「そうなんだ」
「実は、母さんも持ってたのよ。だから、遺伝じゃないといいんだけど…」
「そうなの?初耳」
「そりゃね。初めて話したもの」
母は、無理に笑顔を作ってあたしに向けた。
「排卵障害でずっと不妊治療しててね。治療してからやっと5年目であんたができたの」
「そうだったんだ…」
あたしは、そんな母の苦労も知らずに生きて来たんだ…。
あんなに明るく振舞っているけど、母は母で辛かったんだな…。
そう思うと、母は何て強いのか、と、感心してしまった。
不妊治療は、すごく辛い治療だと聞く。
どんな感じなのかはわからないけれど、薬をすごく使ったり、毎週病院に通ったり。
あたしのレベルではない気は、していた。
だから、あたしはこの時初めて、母を尊敬した。
「母さん」
「なに?」
「あたしを…辛い思いして産んでくれて、ありがとうね」
自然にあたしの口からそんな言葉がこぼれて来た。
「何言ってんの。気持ち悪いからやめてよ」
それは、母の強がりと照れ隠しなのだという事は、わかっていた。
母の目に、少し光るものが見えたからだ。
あたしはケーキを食べ終えると、食器を洗い、自室へと戻った
ただひとつ、「彼氏の母」の病院だ、という事は、言わずにおいた。
母親とは、誰しも苦労しているものなのだ。
母が子を想う気持ちは、その母親にしかわからないだろう。
それを、わかるようになるには、自分が同じ立場に立たないといけない。
そう、あたしは無意識に感じ取っていた。
リュウくんのお母さんも、息子の事を心配していた。
何も思っていないわけではなかった。
それは、もしかしたら、彼にもわかっているのかも知れない。
ただ、気づかないふりをしているだけかも知れない。
親子とは、素直になれる時もあれば、なれない時もある。
そっちの方が多いかも知れない。
だから、反発したり、反抗したり。
お互いの気持ちを素直には、ぶつけられないのだ。
それはでも、自然の流れだ。
そうやって、お互いに歩み寄り、知っていき、思いやれるようになる。
それが成長なんじゃないか、あたしはその時そう思った。
母とは強い。
母は、偉大だ。
あたしは、こんな「母」になりたいと、その時に、思った。

