「ね…彪斗くん。
…そろそろ、練習始める…?」
うかがうような優羽の言葉に、はっとなった。
いけね。
ぼんやりしちまってた。
「ん、ああ…そうだな。
えーと…
じゃあまず、例の練習やるか」
自分から提案しておいて、
にわかに優羽の顔がひきつった。
「あの、それは、まだ…」
「は?なんでだよ。
アレこそ一番練習しなきゃならねぇヤツだろ。
本番まであと一週間しかないんだぞ」
「わ、わかってるよ…。
けどね、こんな本格的なドレス来たの初めてで慣れてなくて…
コルセットも苦しいし…。
だから、先にラストの場面やってもいい?
まだ二人で合わせたことなかったでしょ?」
「…ああ。あそこか…」
『シンデレラ』のラストの場面、といえば、
ガラスの靴によって、二人が結ばれるところ、だ。
でも雪矢版のは、以前観た映画に影響を受けただかなんだかで、この場面についてはちょっと凝っている。
ガラスの靴を履いたシンデレラが、王子に本当の自分を明かすんだ。
憐れな生い立ちや、虐げられていたみじめな生活のこと。
王子と出逢えたのは不思議な力のおかげで、本当の自分は、なにも無いみすぼらしい娘であること。
けれども、王子を心の底から慕う気持ちには、嘘がないこと。
やさしい心根を持っていても、それゆえに、いつも自分を押し殺してきたシンデレラ。
だけど、最後の最後に、真実と想いを伝え、王子に永遠の愛を確かめる。
自分の幸せのために。
『わたしは灰かぶりのシンデレラ。
毎日ぼろを着て、下働きしかしてこなかった身。
裕福でもなければ、由緒正しい血筋でもありません。
それでも…こんな私でも…
愛してくれますか?』
王子はそんなシンデレラに、改めて唯一無二の気高さを感じ、『もちろんだ』と妃に請う。
こうして、末永く幸せに…のハッピーエンド。
一方的に王子に愛されるだけではなく、自分の思いを語らせることでシンデレラに意志を持たせ、観ている女性の共感を誘おう、という雪矢の戦略だが。



