「実は困ったことに、ぜんぜんお客さんが集まっていなくてねぇ…。
いや企画が悪かったんでしょうけど。セクシー系アイドルなのに、こんな家族連れしか来ないようなところでやるなんて。
名プロデューサーでもある一瀬さんならありえないでしょ?」
「はぁ」
「そこで一生のお願いなんだが…
ここで会ったのも縁ってことで、ちょっとステージに出てくれないかなぁ?
君なら家族連れだろうがなんだろうがすぐにお客が集まってくるから。
もちろん前座とは言わない!君のオンステージの後にうちの子たちを出すような形でいいからさ…!」
「いや、しかし…俺は今…。
困ったな…。どうして俺ってわかったんだ…?」
困り切った雪矢さんのぼやきに、おじさんは手を合わせたまま答えた。
「それが天の啓示かと思ったんだけど…
さっき男の子がふらりと現れてね、『一瀬雪矢のシークレットライブってここですか?』って聞くんだ。
話を聞いたら、君がこの近くにいるって言うものだから。
ちょうど君くらいの年齢で、黒髪で…。
どっかで見覚えのある顔だなーとは思ったんだけど、すぐいなくなっちゃって」
はっと雪矢さんが彪斗くんに振り返った。
彪斗くんは素知らぬ顔で背を向けている…。
「彪斗の野郎…」
雪矢さんとは思えないような、すごみのある声が聞こえた…。



