いや正しくはイジられていた。
洸は、おチビな寧音が大のお気に入りだ。
イジりまくって寧音をぎゃーぎゃー困らせるのが、たまらなく楽しいらしい、しょーもないドS野郎だ。
あの勝気な寧音も、洸にはてんてこまいで「変人」って叫んでは逃げ回っている。
「はいはい、朝のスキンシップはここまでにしてくださいね、みなさん。
朝ごはんが冷めてしまいますよ」
そんな騒がしい俺たちをやさしく見守ってくれる、松川さんは常に冷静だ。
バスケット一杯にして運んできた焼きたてのクロワッサンの香りで、俺たちの騒ぎを自然とおさめてしまう。
おのおの席について、俺たちはクロワッサンに一斉に手を伸ばした。
けど、優羽だけは黙ってその様子を見ていた。
だいぶ俺たちに打ち解けてきた優羽だけど、こういう場面の時はやっぱりまだ遠慮している。
俺はそんな優羽を見逃さない。
「ほら、優羽」
優羽の皿の上に、俺はクロワッサンを乗せてやった。
「…ありがとう、彪斗くん」
「べつに」
あーあ、可愛いな。
しあわせ。
けど、正直言うと、俺のもやもやも限界に近づいていた。
優羽ともっともっと近づきてぇ。



