「ふーん、そうなんだ」

そして佐由良はそんな雄朝津間皇子を見て、ふとある事に気が付いた。

「それにしても皇子、しばらく見ない内に背が少し伸びましたね」

前に会った時は佐由良とほぼ同じぐらいだったが、今は彼の方が背が高い。

「そうなんだよ。最近急に背が伸びてね。今は僕の方が佐由良より背が高いかな」

(男の子って急に背が伸びるものなのね。)

すると遠くの方から、去来穂別大王(いざほわけのおおきみ)雄朝津間皇子(おあさづまのおうじ)を呼んでいるようだった。

「あ、そうだ!せっかくだから佐由良も一緒に行こう」

そう言って雄朝津間皇子は、佐由良の手を引っ張って大王の方へ歩き出した。

「ちょ、ちょっと雄朝津間皇子」

佐由良は慌てたが、そのままずるずると引っ張っていかれ、大王の前まで来てしまった。

「あぁ、佐由良か。今日は仕事を手伝わさせてしまって済まないね」

「大王、この度はお誘い頂き誠に有難うございます」

佐由良は大王の前で、深々と頭を下げた。

「そう言えば、紹介がまだだったな。
こちらは私の后の黒媛(くろひめ)。そしてこの子が息子の市辺皇子(いちのへのおうじ)だ」

「これは黒媛様に、市辺皇子。初めまして。
吉備国海部から来ました佐由良と申します。今は瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)の宮にお仕えさせて頂いてます」

「あなたの事は大王から聞いております。こうしてお会い出来て光栄だわ」

(黒媛様はとてもお優しそうな方)

その時ふと、後ろから瑞歯別皇子の視線を感じた。

(え、瑞歯別皇子に見られてる?)

だが皇子がこちらに話してくる気配は無さそうだ。

皇子の横には、先程の女性が親しげに彼に話しかけている。
それを見た佐由良は、胸に矢が刺さったように苦しかった。

(あの女の人は一体誰なの。と言うより、あんなに女性と楽しく話してる瑞歯別皇子なんて見たくない)

「では大王、申し訳ありませんが。私は仕事に戻ります」

「あぁ、そうだったな。忙しい時に本当に済まない」

去来穂別大王は申し訳なさそうに言った。

「いえ、大王と黒媛様や市辺皇子にお会い出来てとても嬉しく思います」

「本当に残念ね。また別の機会に是非お話し致しましょう」

黒媛もとても残念そうに彼女に言った。

「では、失礼します」

そう言って佐由良はその場を去った。

(うん、佐由良?)

雄朝津間皇子は不思議そうに佐由良を見た。

(一体どうしたんだろう?)