「私…は、話す事なんてありません」


鍵を握り直し滝沢先輩の視線から逃れる様にドアに手を掛ける


「七瀬!」



滝沢先輩に腕を強く引かれ、私の手から持っていた荷物がバラバラと落ちる


私が拾うより先に手を伸ばした滝沢先輩の手に握られたものはさっき渡されたお見合い写真だった



「……見合い写真?」



滝沢先輩からソレを奪い取ると慌てて部屋の中に入って鍵を掛けた



鍵を掛けると一気に力が抜けて私は玄関にヘタリ込んでしまう


――コンコン


「七瀬、頼む…話しさせてくれないか?」


「私は話す事なんてないです。帰って下さい」



これ以上滝沢先輩に関わるのは危険だ




この旅行中、思い浮かぶのはいつも滝沢先輩の事ばかりだった



いつの間にか好きになってた滝沢先輩


日に日に消えて行くあの日の彼が付けた痕が私を苦しめる



だから、もう会わない



滝沢先輩の事は忘れるんだ


そう自分に言い聞かせてた




「七瀬、話し聞いて貰えるまでずっと待ってる」




ドア越しに聞こえる声が切なくて私は耳を塞いだ