「忘れ物、思い出した。」



課長がそう言った瞬間


重なった唇。


1秒もない触れるだけのキス。


驚いて、硬直したままの私に彼はやっと優しく笑った。



「行ってらっしゃいのキスをもらうのを忘れてた」








「えっ?」


忘れ物がそんなもの?



でも確かに…


そう


大切なことを忘れてた。


「課長…会えないの。淋しいですけど、課長が新しい環境で大変なの分かってます。


だから頑張って下さいね。


でも…」


「でも…?」


「できれば毎日、課長の声が聞きたいです。」


「…俺も同じだよ。」


課長の優しい笑顔に

凍り始めてた心が温かさを取り戻して行くのを感じた。




「できれば…その…」

「なんですか?」



「俺からじゃなく…果穂からもして欲しい」