私がこの伊勢谷堂に就職しようと決めたのも、そんな彼を見守りたいと思ったのがきっかけだった。
だから必ず彼の新刊が出ると力を入れてコミックの配置を変えたりポップを作った。
自分の新刊が出る日には決まって朝から閉店間際まで手に取る人の様子を伺う彼の背中をいつも店長と見守っていた。
店長もいつしか気づいていたようで、そんな彼を優しい眼差しで
「あの漫画家さん、頑張り屋さんだよねぇ。ついついあの人の作品の評価を教えたくなっちゃうね、大丈夫、人気ですよって」
と言って微笑んでいた。
閉店間際まで様子を見たあとは必ずライバルであろう他の人の作品をまとめてどっさりと買って帰っていった。
それをこの3年間欠かしたことがなかったのだ。
そんな彼が、一体何故・・・
そもそも彼は私の憧れた菊池ツカサ先生なのだろうか・・・
そうだ。
こんな悲しい表情は今まで見たことがなかったけど、間違いなく私の憧れた先生が今目の前に立っている。
