口に重ねた手をゆっくり離して、先生の手を握った。
「気づかなかったんですか?」
今の私にできる精一杯の仕返しだった。
先生は信じられないような顔をしていて、先ほどの私同様ぽかんとしていた。
「最初に好きになったのは先生の作品だったけど、読者さんの反応を観察する先生をいつも見てました。」
「嬉しそうに微笑む先生。安堵する先生。ガッカリしたあとに頑張ろうって上を向く先生。」
「見守ることしか出来ないけど、そんな先生を見ていたくて伊勢谷堂に就職したんです」
私の言うことがそんなに意外だったんだろうか
先生は全身の力が抜けたみたいにペタンと座り込んでそして「うわぁぁ・・・」と力の無い声を出して頭を抱えてしまった
そしてとても申し訳なさそうに
「自分から嫌われるようなことしちゃったか・・・」
と小さくつぶやいた。
私が握った手をその上から強く握り直して
「許されることじゃないけど・・・ううん、許してくれなくてもいいから、どうかどうか嫌いにはならないでください」
世間的にはとても許される行為じゃないことだけど、不思議と私の心は暖かく、彼を責める気にはなれなかった。
だって、やっと確信できたんだ
先生のことが好きってこと。
