悪い人【完】




辞める。別れ。


色んなことがいっぺんに起きているようで、私は動揺と混乱を隠せなかった


まず家族同様の伊勢谷さんに別れを告げるなんて、考えたこともなかったからだ


仕事は?
忙しい店ではないけど従業員は私1人だし、店長1人でやれるだろうか


仕事を辞めて家にも帰れなくて私はここで何をするんだろう、一生この部屋にいるんだろうか



色んな思いが頭の中を駆け回って、整理がつかない。



「私は・・・どうしたら・・・」

さっきまで止まっていた涙が不安と共に溢れ出してきた

こんなに泣いたのは両親が亡くなって以来かもしれない
あの小さかった頃の私と今の私が重なるようだった。



伊勢谷さんに別れを告げるということは、つまりそういうことだ。



すっかり熱を失ったタオルに顔をうずめていると、先生の手がなだめるように私の頭をなでてくれていた。


「やっぱり伊勢谷さんの事が好きなんだね」


「・・・え」


顔をあげると先生はとても悲しそうな顔をして私を見ていた。