別におとぎ話が嫌いだった訳じゃない。


逆に大好きだった気がする。


お姫様に憧れる日もあったし、王子様を待った日もあった。


でも、ある日突然自分自身に問いてしまった。

「王子様って本当に居るの?」


その日から読まなくなった『世界のおとぎ話』。


読みすぎてボロボロになったこの本は、今でも家の本棚にある。


”読みすぎて、苦手なジャンルになっちゃったのかなぁ”
なんて思いながら、またあった所に戻した。

するとふと目についた本があった。


『空』


初めて買ってもらった写真集だ。何種類もの空の表情が映し出されていて、一目惚れした本。唯一の、「何度読んでも嫌いにならない本」だった。そしてまた、わたしが写真を撮り始めるきっかけとなった本でもあった。


携帯をチェックしたら、時刻は午後3時21分。


「今日はちょっと早いけど…いいか」


そう独り言を言い、お気に入りのリュックに必要な物を入れた。


携帯、お財布、音楽プレーヤー、イヤホン、読みかけの本、そしてカメラ。


「おばあちゃん、わたしバイト行ってくるね」

「今日は早いんだね」

「うん。7時半くらいには帰ってこれると思う」

「そう、わかった。いってらっしゃい!」

「いってきます!」