誰にも知られない、語られない話


お父さんは怒った。

お父さんは僕の育てた大切な弟を奪おうとしていた。

僕は弟をかばった。

たくさんたくさん叩かれた。

それでも、お父さんは止まらなかった。

お父さんは何も聞こえてないようだった。

何も見えていないようだった。

振り下ろされた手が、僕の視界を奪っていく。

振り落とされた足が、僕の音を奪っていく。

叩き込まれた拳が、僕の中身をぐちゃぐちゃにしていく。

口から、手から、足から、頭からく血が流れてきた。

意識は途切れそうだったけど、大切な弟を壊されるよりはマシだった。

手が変な方向に曲がってる。

足もおかしな方向に曲がってる。

どうして?僕、なんか悪いことした?

なんで僕は、痛い思いをしなくちゃいけないの?

「っう……ぅ、ぅえぇぇぇぇぇん!!」

弟が突然泣き出した。

どうしたの?お兄ちゃんは平気だよ。

抱きしめて、あやしてあげたいのに僕の腕は足は、もう動かない。

それでもなんとか近づいた。幸いにも、片足と片腕はまだ折れていなかった。

僕は無事な腕で弟をなでてあげる。

「大丈夫。お兄ちゃんがついてるよ」

弟を抱きしめようとしたとき、弟の体が横に飛んでいった。