「ーーー例の『奴』を向かわせろ」
「っ!」
手下は目を大きくした。
そしてゴクリと唾を飲んだ。
「しかし黒犬様…
『奴』を解き放つのは少々危険かと……」
「はっ、なぜだ?」
仮面の男は手下に近づくと、後ろで手を組みながら顔を覗き込んだ。
手下の首筋を一筋の汗が伝う。
「そ、それはーーー…
私にも家族が…」
仮面の男の眉がピクリと動いた。
「家族か…なるほどな。
ーーーしかしだ。
俺には家族というものが分からない。
どういう意味なのかさっぱりね…
説明してくれ、家族ってなんだ?
家族が大切なものだということを、論理的に説明してくれ。
納得できたら『奴』を解き放つのはよそう」
手下は黙り込んだ。
もう一筋の汗が伝うーーー。
「論理的に説明することはーーーできません」
仮面の男の口元がにやけた。
「では、解き放つんだ。
さっさと行け」
手下は歯をくいしばると、悔しそうに一礼してからその場を去っていった。
「ーーーふっ、家族ね。
お前の『親代わり』に会わせてやるよ、兎」
仮面の男はそう呟くとーーー
一瞬にして姿を消した。
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