実際、東の町には一度だけ来たことがある。





だがそれはーーー


俺にとってはとてつもなくつらい記憶の一部だ。






「東の町にはどんなものがあるのだ」




ニカの質問に、俺は静かに答えた。





「ーーー奴隷だ」



「っ!!」



「この町には奴隷とそれを扱う奴隷売りしか存在しない」



「……っ…」




ニカは急に黙り込んだ。




変なことでも聞いてしまったとでも思ってるのだろうか。





「じゃ、じゃあお前がこの町に来たことがあるというのは…」




ニカはなんとなく感づいているようだった。





「ああ、そうだ」




声が重たくなるのを感じた。




「俺はーーー奴隷だった」










「ーーージョンさんは奴隷だったんすか!?」




ガイドンの大きい声が前から聞こえてくる。





「ああ、まあな。
奴隷だった上にとんでもない暴れん坊だったさ」




昔の自分といったら、極悪の極みとも言えるほどの悪魔であった。







ーーーしかしそれは、






『全員くたばっちまえぇぇぇぇぇ!!!』






きっとこの『奴隷町』での経験が大きく関わっているからかもしれない。