「ーーーどうした兎!」
「っ!」
ニカの声で俺は我に返った。
あたりからは町民たちの賑やかな声が聞こえてくる。
「何度も声をかけても答えないではないか!
とうとう頭がおかしくなったのか!?」
ニカはいつもの調子で、俺にガミガミと言ってくる。
「あ…あぁ……すまん」
俺は片手で頭を叩いた。
さっきのはーーー何だったんだ…
「ーーーでは行くぞ、兎」
「っ!」
気づけばニカは、まだ俺の手を握りしめていた。
握る力は弱いものの、強く強く俺の手を握りしめているーーー。
「さっき言ったことは変わらない。
ーーー前へ進むぞ、兎」
「あ…」
ーーー自信を持て。
ーーーお前を信じている。
ニカがさきほど言った言葉を思い出し、俺は「ふっ」と笑みを浮かべた。
「なんだ兎、何がおかしいのだ!」
「いや、やはり娘は親に似てバカになるんだなと思っただけだ」
「っ!兎…!!」
「ははっ」
俺はニカの手を握り返した。
「あっ」
「分かったニカ、信じよう。
ーーー俺は俺を信じよう」
前へーーー進もう。
ーーー鷹目。
お前の馬鹿なところは呆れるほど嫌いだった。
だがーーー
お前のたまに口にする一言はーーー
俺を前に進めてくれていたな。