「兎は寝ないのか?」



背後から不安混じりの声が聞こえてきた。



「ああ、あと少しだけ起きている。
俺もすぐに寝るから安心しろ」




月を見上げながら、俺はニカに優しい声でいった。




「ーーー分かった」




シルクハットをとる音が聞こえる。




「おやすみ、兎…」




ニカはーーー6歳の幼い声で言った。







「ふっ、おやすみ」






ーーーニカ…













ーーーニカが眠りについた後、俺はしばらく窓枠に腰掛け、いろいろと考えていた。



ガイドンのうるさいいびきが邪魔をしてくる。









「………」




ゼイルが死に際に口にしていた言葉。



一つだけ、気になるところがあったのだ。






『…黒犬が現れたーーー』






「黒犬…か……」





ニカが孤児院で会ったという男も、確か黒い犬の仮面を被っていたと言っていた。





もしかしたらーーー…



いや、間違いなく、



それは同一人物のはずだ。