朝起きて、顔を洗って、歯を磨く。


皆が当たり前にやっている朝の一連の動作をやり終えた縫依は寝間着を脱いで何時もの様に着物に着替える。


「んー。今日は曇ってるさかいなぁ……」

どの色にするか天気をみて考える。

曇りの日に映える色を考え、手にとったのはからし色に近い黄色。

縦に何本か色の違う線が感覚を開けて入っており、足元は黒をベースとした花がバランスよく入っている。
帯は花の色に合わせて黒。


「よし、これでええやろか」

何時もの様に着付けを終えて鏡に向かう。


「今日も、きばりやす」

と、自分に向けて言った。


気合も入った縫依は巾着を持ち、外へ出た。



「おしめり(雨)が来はる前に済ませやななぁ……」



空を仰ぐと早足にもんを出た。






暫く歩き、目的地までは後少し。




と、いう所で………。






「きゃぁっ………」



人にぶつかってしまった。




「すんまへん…」

直ぐにぶつかった人の顔をみて謝った。



「……いや…」


ぶつかった男はそれだけ言い、固まった。


「……どないしました?」

首を傾げて固まる男の顔を見てみるが、男は反応無し。



怪訝な顔を向けるが男は更に固まるばかり。


「…あの…うち、急いどるんどすけど……」

何とか言ってもらわなければ立ち去りにくい空気。


「…あ、あぁ……悪かった」

男はそれだけ言って縫依の顔を見つめた。

縫依は男が反応したので、もう一度謝りその場を去ることにした。


「ほな、ほんまにすんまへんどした」



ペコッとお辞儀をし目的地まで急いだ。





その後ろ姿を、男がずっと見つめていた事に縫依は気づくはずもなく………。