あなたとキスをするまで






2日後。ワタシの事件は相当事件になったらしい。学校の先生たちはみんなワタシの心配をしてくれたけど、その他美夜さんや家族にはこっぴどく叱られました。

病院にも行って検査して、身体が無事なのもちゃんと調べました。


ガラガラッ。




「おおー、七尾生きてたかー」

「七尾ちゃん寝グセすごいよー」

「イチコの席、廊下側に変わったから」



相変わらずなクラスの団結力を見せるコメントと美夜さんの気になる一言を1日ぶりに学校へ来たワタシは浴びる。



「なんだとおおおおおお!!!美夜さんどういうことおおおおおおおおお!!」

「そのまんまよ」


なんかとても冷たい。背中に貼ってる湿布も冷たいけど心も冷たいよ、冷え冷えだよ。


ああ、ワタシの人生ログアウトだよ。



「美夜さん、泣いていい?」


「泣いて窓から飛び降りるなよ」


「あれは飛び降りたんじゃないもん!!落ちちゃったんだもん!!!!」


うわあぁああああああっっ!もう、やだよおおおおおぉおおお!


むくろ君のそばに居れないなんて死んじゃうよおおおおおぉおお…っ!!




「…ワタシ帰る」

「はあ?」



だってだってだってだって!!!!ワタシのライフ削られすぎて粒子サイズだよ。



「誰が帰るって?」

「あ…むくろ君…」


いま登校して来たであろうむくろ君が教室の入り口付近に立っていた。


「ブラックコーヒー、30秒以内」

「…わ、わかりました!!」


なんとなくむくろ君の目を見るのは気まづくて、目が合わないように横を通り過ぎてワタシは自販機へ向かった。


だって、だってさぁ?なんかさぁ?気まずいじゃぁん?ね?木から落ちたのを直接受け止めて助けてくれたのはむくろ君で…何か話そうと思ってもむくろ君はずっと無言だったし…まだ、その…ちゃんとお礼が言えてないのです。


助けてくれてありがとうって、その一言がちゃんとまだむくろ君に言えていない。


いつ、どんな風に言えばいいか分かんないんだよ!!き、き緊張するし!!…はあ。



「むくろ君、ホットのブラックコーヒーですっ」



ワタシはコトンとむくろ君の机にコーヒーを置いた。ワタシはむくろ君のおかげで自動販売機との交渉を1秒もかからないうちに終えれるようになった。相変わらず足は走っても歩いてるの?と言われるほど遅いけど。



むくろ君は何も言わずにプシュっと缶を開けるとコーヒーを飲み始める。もし良ければ今口付けしたそのふちをワタシに舐めさせてはくれないだろうか。


「消えろ」


用が済んだはずなのにワタシがまだむくろ君の前に居るのはやっぱりちゃんとお礼を言わなきゃと考えるからで、そしてそしてなんかむくろ君は不機嫌になるしワタシは言い出せない。


美夜さん!助け舟!!!!!!!


「…あ、やった〜!今日の運勢1位!」


楽しそうにスマホ占いをしてやがる。くっそ!!その運を全部ワタシが吸い取ってやる!!!!!


すうぅ。


「む、むくろ君!!あのね!!助けてくれてありがとう!!!!」


よ、よよよよし!!!!言った!言えたぞ!!!頑張った!頑張ったよ、ワタシ!今日は赤飯にしようお母さん、ワタシが帰りにお豆買っておくよ!もち米が無いならもち米も買って帰るからさ!


「……」


え?む、無言ですか?



「むくろくっ」


「どうしようかと思った…」


「え?」


「心臓に悪すぎだ、お前が居なくなったら俺……」


んなっ!ん、なぁ…あっ…う、で、デレ期ですか!?デレ期なんですか!?むくろ君!?


「…俺、お前が居なくなるとか考えられないから、お前に消えてもらっては困る…」



「……むくろ君…」


そこまでワタシのことを…どうしよう、お母さん今日は赤飯どころじゃないよ、ケーキも用意しなきゃ。



「わ、ワタシの代わりなんてそうそう居ないですもんね!!」


「ああ。お前ほど使えるやつは居ねえよ…これからも俺のために働け、死に損ない」



「はあぁ〜いっ!!!もったいなきお言葉で、ウガッ?!」



ワタシはスネに受けた衝撃にしゃがみこんだ。


痛い…っ、むくろ君の仕業だ。




むくろ君はいつもと変わらず、ゲスいです。