そしてこれから大人になるようで

ふと目が覚めた。

時計を見ると14時半。
いつから寝ていたかは覚えてないが、どうやらぐっすり眠れたらしい。
朝に比べてだいぶ頭がすっきりしている。

それとは逆にまぶたがすごく重かった。
泣いたのは夢の中じゃなかったのか。
それとも夢の中で泣いていたから現実でも涙が流れたのか。

どちらなのかはわからないが、とりあえずこのまぶたの重さをなんとかしたかった。

保冷剤でも持ってきて冷やそうと思い、ベッドから起き上がろうと肘をつくと、

「寝てろって。まだ熱あるみたいだし。」

すぐ隣から聞こえてきた声に、私は目を見開いた。

「な…っ、勇世?!」
「でかい声だすなよ。」

なんでここにいるんだ。
ベッドの横に座ってじっとこちらを見ている。

「あ、え…学校は、どうしたの。」
「サボってきた。」
「は?!なんで、」

大きな声を出した私の手首を引っ張り、
勇世はその胸に私を抱き寄せた。

「あ、の…」
「お前、俺のことなめすぎ。」
「へ…?」
「俺が…お前に寂しくて死なれても平気でいられるような男だと思ってんの?」
「…?!」

な…!
な、なん…なんでそれを?!

パクパクと金魚みたいに口を開ける私を見て、
勇世は呆れた顔をして私の携帯をとった。
着信履歴を開いて私に見せてくる。

「電話で喋ったの覚えてない?」
「え、うそ。電話だったの?夢なのかわからなかった…」

じゃあ、そのあと学校サボって私の家まで来てくれたってこと?

「美生」
「…なに」
「寂しかったの?」

そうやって勇世に優しく頭を撫でられて、私の口から本音がポロポロと溢れだした。

「お昼休み…一緒にご飯食べようと思ってももういないし、こないだの合同授業だって喋れなかったし、昨日も…断られ、て…私…」

あぁ、ださい。
私こんなキャラだったっけ。

そんな自分が嫌で勇世から離れようとした。
すると、勇世はさらに強く抱きしめる。

「…あーもう、ほんと無理。」
「へ…?」

無理ってなに。
私と付き合っていくのが…もう無理ってこと、

「頼むからそれ以上可愛いこと言うな。」
「…?」

予想外の言葉に、思わずポカンと口を開いた。

「俺は、中1の頃から美生のこと好きだったの。」
「?!」

う、嘘?!
そんなの初めて聞いた…!

「ずっと好きだったお前のやっと付き合えてさ、そりゃ浮かれるっつの。彼氏っていう…いつでも触れていい立場になったわけだろ?…平常心保てってのが無理な話だろ。」

え…あ、…え?

予想外すぎて、頭がついていかない。
そんな私をよそに、勇世は続ける。

「友達の時は普通に接することができてたのに、急に意識しちゃって…。お前、ちょっとは自分が可愛いって自覚しろよ。」

「な、なにそれ…」

か、…かわ、可愛いって…
私が…?

「どんどん女っぽくなるしさ、近づけねぇじゃん。嫌われるかもって。」
「…なんで」
「…男子高校生の性欲なめんな。」
「?!」

そう言ってそっぽを向いた勇世の耳の赤いこと。

なんだ。
ちゃんと、想われてたんだ。

安心から思わず笑みがこぼれると、勇世がこちらを向いた。
そして、コツンと額をぶつけられる。

「…寂しい思いさせてごめん。お前何も言わなかったから。でも…言わないんじゃなくて、言えなかったんだよな。」

「いいよ。授業投げだしてまで来てもらえるくらい愛されてるってわかったし。それに…同じ頃から両想いだったんだってこともね。」
「…は?」

今度は勇世がポカンと口を開けている。
そんな勇世を見てクスクス笑うと、参ったなと苦笑いしながら呟く。

「同じ頃から両想いだったってことかよ。」
「それさっき言った。」
「…うるせ。」

しばらく沈黙が続いた。
そして、

「…好きだよ。」
「私も好き。」

ゆっくりと目を閉じて、どちらともなく唇を重ねた。


これが、私たちのファーストキス。