これは、秘密です。






「美緒ってば、いつも急いでどこに行っちゃうの??」



先輩たちの秘密に触れた日から
早いもので1週間ほど経った。



そんなある日だった。



「へっ!?」


「だーかーらー!!
美緒、ご飯食べたらすぐどこかに行っちゃうじゃん!」



どこに行ってるの?とわたしに尋ねてきたのは、中学からの友人である優里香(ゆりか)だった。


優里香は面倒見が良くて、明るい
お姉ちゃんのような子。



「えーと、あ、うーんとね…」



わたしが口ごもると、優里香はいぶかしげにわたしの顔を覗いた。


「そ、そう!
わたし新入生テストで成績悪くってさ!先生とマンツーマンなの…」


「補習ってこと…?」


「そ、そうそう!」



うーん…苦しい…か?



「なーんだ!そうならわたしだって勉強付き合ったのに!」



ほっとしたような顔で彼女は笑った。


とりあえず、ひと段落…


だって、どんなに優里香を信頼していたって言えない。





蒼井馨先輩に血を吸われています!

…なんて!!!





親友を騙してしまったことへの罪悪感を持ちつつ、わたしはまた資料室へ向かった。





ガラガラッ…





「失礼しまーす…って!

ごめんなさい!お食事中でしたか!?」



私が戸を開けると、ちょうど馨先輩が響先輩の血を吸っていた時だった。



「いや?もう終わるよ。」



響先輩が笑って立ち上がった。


この光景にも早いもので慣れ…





…るわけがない!!





何度見ても心臓が壊れそうなほど
ドキドキするんだ。


綺麗で、美しい。


きっと、このふたりだからなんだろう。



ふたりの邪魔をしないようにと
静かに戸を閉めた。



「わっ…!?」



その時、古い資料室の床の綻びに足を引っ掛けて転びそうになってしまった。



思わず近くの本棚に手を着いた時。



「痛っ…!」



指先にちくりと痛みを感じる。


恐る恐る手の平に目をやると、
人差し指の先に血が滲んでいた。



「あ、血が出てるよ?」



大丈夫?と響先輩がわたしの指を
覗き込んだ。



「この本棚も古いからなぁ…
木屑が刺さっちゃったのかも。」


「このくらい平気ですよ!」



わたしが制服のポケットから
絆創膏を出そうとした時だった。





「見せて。」





馨先輩がわたしの怪我した左手を
ふわりと持ち上げた。




どきんっ…




馨先輩の視線が、わたしの人差し指に集まる。



とたんに全身が熱くなってきた。



指にも心臓があるみたいにどきん、と脈打っている。



「だ、大丈夫です、よ?
わたし絆創膏持ってますし…!」



そんなわたしの言葉をよそに
馨先輩の唇がそっと近付いた。





ちゅ…





優しく、触れるだけ。



まるで指先にキスしてるみたいに
先輩は綺麗な仕草で血を吸った。



心臓、うるさい…!



ちょっと身動きを取れば、
心臓の音全部、先輩に聞こえてしまいそうだった。



「…ん。」



指先から唇を離すと、先輩はまた
わたしの指先をじっと見た。



「傷、浅いみたい。きっとすぐ治る。」



は、はい…



声に出したつもりだったけど、
ちゃんと返事しきれてなかったかもしれない。



ふは、っと響先輩が笑っていた。



「美緒ちゃん、顔まっかだよ?」



あわてて頬に手をやると、自分が
思っていたよりも熱かった。



「だ、大丈夫…で、す。」



わからないというように馨先輩は
首を傾けた。




あの日、先輩たちの秘密に触れてからというもの、わたしの動悸はおさまることを知らない。


毎日ドキドキしっぱなしだ。



その原因の張本人は全くと言っても
気づいていないけど…



「…どうしたの?」



馨先輩がわたしの顔をそっと覗き込む。



「い、いえ…なんでも!」







ねぇ、先輩。


わたしと先輩はなんなんだろう。




友達、とは言えない。


じゃあ…



この関係に名前をつけるなら

一体何と言うんだろう。





考えても答えは出ない。



いつか、この胸の高鳴りの理由を




わたしは知ることができるのかな?