これは、秘密です。






それからというもの、
わたしは毎日資料室に通った。


馨先輩と “ 取り引き ” をしたから。



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「お願いしますっ…
消さないで、くださいっ…!」



わたしが必死に叫ぶと、
馨先輩は手でわたしの口を塞いだ。



「わかったから、ちょっと静かにして…」



彼女はわたしの目をじっと見た。


ブルーグレーの瞳。


冷たい色なのに、こんなに綺麗。





「まぁまぁ、馨。
その子の話も聞いてみようよ?」





響先輩はワイシャツのボタンを閉めながら笑顔で近づいてきた。


「えっと…名前は?
リボンの色だと、新入生かな?」




あ、響先輩もだ。

馨先輩とおなじ、ブルーグレーの瞳。




「あ、はい!
わたし、1年3組の周美緒です!」



「美緒ちゃんは…」



響先輩がわたしに声をかけようとした時、





「怖くないの?」





馨先輩が口を開いた。


その瞳には、なんの感情も見えなかった。





怖くなかった、といえば嘘。


でも怖い、というのも違う。


それよりも…





「少し…怖かったですけど…」





真っ白な肌と鮮やかな紅。


焼き付いて離れないのは






「綺麗…だと思ったんです…」






少しの沈黙が流れる。





「ふ、はははは…!」





沈黙を破るように響先輩が笑った。



「面白いね!美緒ちゃん!」



な、なんのことだろう…?



「俺は美緒ちゃんいいと思うよ…

…ね?馨?」



はぁ、と馨先輩はため息を吐いた。



「周さん…だっけ。」



はいっ、と答えると
また先輩の瞳がわたしを捉えた。




どきんっ…




馨先輩の瞳はわたしを熱くする。


目が合う度に心臓がうるさい。


魔法みたいだ。





「…今見たこと、絶対に口外しないで。


そのかわり…」





「血、吸ってください!」





呆れたように、馨先輩が笑った。



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これが、わたしと先輩の
“ 取り引き ”だ。



先輩たちの秘密を言わないかわりに

わたしの血をあげる。



こんなのおかしいよね。



ていうか、わたしのワガママだったんだけど…





先輩はわたしの血を吸う。





今も…