「せーんぱいっ!」



梅雨の始まった頃、

少し湿った空気の資料室。


わたしは元気よく戸を開けた。



「…今日も元気ね。」



その人は、
窓辺に腰掛けて気だるそうに言う。



「えへへ、それだけが取り柄ですから!」



わたしは鍵を閉めた。

それが、合図だから。



「いーですよ、先輩。」



先輩に近づいて顔を覗き込む。



あ、笑った。



少し呆れたような顔。
でも、とても優しい顔なの。



「貴方って、本当に変ね。」



しゅるるっ、という音とともに
わたしの赤色のリボンが落ちた。


先輩の綺麗な綺麗な手。


その綺麗な指が、わたしのブラウスのボタンを丁寧に外していく。


わたしの肩に手を置いて、

首筋に唇を寄せる。


そして




「あっ…」




少しためらって、噛み付く。


はっとするほど冷たい唇。



毎日毎日繰り返すのに

毎日毎日同じことをするのに



(また、胸が熱い…)





わたしだって分かってる。


これがおかしいことだって。


今すぐにでもやめなきゃって。



でも…もう無理なの。





引き返すなんて…。







これは秘密。

絶対に言ってはいけないの。






彼女…蒼井馨先輩が






“ 吸血鬼 ” だってこと。