あ い の う た <実話>

あたしの耳には微かに漏れる音楽だけが届く…。




『俺、このうたすき。』



『あいのうた?』




『よくわかるね?笑』



『音漏れしてるし。笑』




『…それにあたしもそのうたすき。』



尚は微笑むと、
流れる音に合わせて歌を口ずさみ始めた。


あたしの耳には尚のうたう声だけが届いた。




心地良い声。



教室の隅っこで響く尚の声。



その空気に飲み込まれてしまいそうになりながら、



あたしはただ頷きながら耳を傾けていた。