あ い の う た <実話>

『え〜〜帰ろ〜よ〜』



『俺も自遊人のサイン欲しいもん!ゆなちんだけ持っててずるいし!』



今日は涼介さんと顔を合わせず帰りたかったのに、
尚は『サインをもらう』と駄々をこねていた。



あたしの学校用のファイルに書かれたサインは出待ちしてもらったのだということを、前に話したのを尚は覚えていたのだった。



そうこうしていると、涼介さんは出てきてすぐ、あたしたちの存在に気付いた。



『ゆな〜!』



『うひょ-ゆなちん涼介さんと顔見知り!?すげー!』

尚は涼介さんに聞こえないよう、小声ではしゃいだ。



『珍しーの連れてんね?笑』
涼介さんは尚を指して言った。




『学校の…友達です。』



何故か後ろめたい気持ちになった。




『…友達か。ライバルかと思って嫉妬したんだけど、笑』



『ええ?』



あたしより大きく反応したのは尚だった。



『んや、冗談、笑』




『おわ〜〜びっくりした〜!!』
尚はいちいちリアクションが大きい。



『こいつ可愛いね、笑』
涼介さんは笑顔を浮かべた。



『じゃあそろそろ俺、戻るわ〜〜』



『お疲れさまで〜す』
『お疲れっす!』





『あ、ゆな!言い忘れたことがある!』

振り向いた涼介さんは優しい笑顔を作った。






『また俺ん家泊まりに来いよ?』
悪戯っぽく笑って涼介さんは去ってった。





『ゆ…ゆなちん涼介さんとそーゆう関係!?』



『ちがう!知らないっ』




絶対……
からかわれてる…。




帰り道、
尚は珍しく口数が少なかった。



唯一、話したこと。
それは……


『…涼介さんて、ゆなちんのこと好きなんじゃないかな?』


『それはないよ笑』
とあたしが言うと、



『俺にはわかるもん。』
とだけ言った。




尚がサインをもらい忘れたことに気付いたのは翌日になってからだった。