だから笹木野は、松沢の本性を知らないでいたのだ。

女の子って怖いんだぜ、と声に出さず隣の席で友達と喋っている笹木野に言った。



「でも、私たち本当は七篠さんに憧れていたの」

「松沢さんたちに何されてもめげないし、いつも堂々としているし」

「っていうか、松沢さんたちやり過ぎって、正直思ってて…」

ペラペラと話す女子たちの話をあたしは、上の空で聞いていた。

あまり聞きたい話ではなかった。

だけど、ぼんやり夢香が普段耐えているのは、こういうものなのではないかと思うと、蔑ろに出来なかった。

聞きたくない話を笑顔で聞ける夢香は、やっぱりただ者じゃないな、とあたしは感心した。

あたしはもう、興味のない顔をしていることが、自分でも分かった。


その時、がらりと扉が開いて、渦中の人物である松沢が入ってきた。

「あ…」

今まで楽しそうに松沢の悪口を話していた女子たちが一斉に小さくなって言葉を濁す。

さっきの勢いはどこに忘れてきたのだろうか。

松沢は、あたしたちの方をちらりと見ると、すぐに顔を逸らしてつかつかつかと自分の席に着いた。