言い終わる前に新さんがそう言うと、リップを持った。
「俺は『MIRAGE』が一番好きだ。同系色じゃないと纏まらないはずなのに、赤薔薇に水色を塗るセンスが綺麗だと思ったんだ」

返す、そう言って渡された私のリップを見て、優しげな視線を向ける。

こんな優しい瞳も持っていたんだ。
良く見ると、このアンティークの化粧台の上には、お婆ちゃんがデザインしたジュエリーが飾られている。
『MIRAGE』は、一年間だけのブランドだったから数は少ないのに、二人は全て揃えていた。カバンに、ネックレスにミラーに靴。

「それは、私の力じゃなくて、お婆ちゃんのデザインの良さです。宝石の様に描いてくれたから」
でも、私の色まで評価してくれて、――お婆ちゃんじゃなくて私だって気付いてくれたのは嬉しい。
誰も見ていないと思っていた、気付かれなくても良いと思っていたのに、嬉しい。
ハンカチも返して貰えて嬉しくなった。
「控え目なその性格も美しいけど、嘘は駄目ですよ。嘘は」
「そうだな。何も出来ないような素人面はもう止めろ。俺らはその才能を買ったんだから」