駅の改札口を抜け、オフィスビルが立ち並ぶ中、35階建てのビルの入り口に他の人と同じように吸い込まれて行く。
株式会社『グラツィオーソ』、宝飾のデザインや海外での買い付けバイヤーから様々な事業を展開している日本で一番のシェアを誇るジュエリー会社。
私はその会社の七年前に創立された若い女の子向けジュエリー『TEIARA』に配属される。
大学の友達に言えば、知らない人はいないような有名ブランドだから、ちょっと得意になってしまいそうだけど、所詮契約社員。
三か月の雑用研修期間の働きによっては来年度も契約してくれる異例の甘さ。
祖母がこの『TEIARA』にコネがあるからなんだけど。
「初めまして。事務室長の塚本です。今日から一緒に頑張って行きましょうね」
にこやかに笑ってくれたのは、ぷっくりした赤い唇がセクシーな、銀のフレームが大人の女性を演出している私より一回りは年上だろう厳しそうな女性。
私の背筋も自然と伸びる。
「はい、宜しくお願いします」
「私たちの仕事は、昨日も説明したけど、他も部署の助っ人や、書類作り、あと備品管理に来客の御もてなし」
つまり、雑用ってことだよね。
勿論用でも何でもいい。就職できさえすればもう私は何も言わない。



