どこかのお城かっと叫びたくなるような、細かな細工の鏡を覗きこみながらリップを塗る。

「んん。駄目だ。コンタクトがないと、よく見えない」

すぐ家に帰る為だったから予備をもっていなくて、片方落としてしてしまったから両方外したけど、見えにくい。

だいたい、ガサツで頭も悪くて、顔も可もなく不可もなくどこにでもいそうな私が、こんな場違いな飲み会に来ていいわけなかった。

祖母がどうしても自分が行った大学に私を行かせたかったらしくて、金持ちでもない庶民な私がこんな大学に通ってたけど。
やっぱ飲み会は流石に身分不相応すぎた。
帰りたい。

「帰ろうかな」

だって、穴埋め要員のはずが、向こうも一人足りてないし。

在学中に起業したとかしないとか、あの中でも群を抜いて金持ちの御坊ちゃまが。


やっぱり、帰ろう。
どうせもう会う事もないから、こっそり抜け出そうと、卑怯な手を思いついて、浮き出しだった足取りで、トイレのドアを勢いよく開けた。

「いてっ」
「わ、すいません」

勢いよくドアを開けた為に、誰かの足にぶつけてしまった。
急いで謝罪しつつ出口の方へ向かおうとしたら、その人が手首を掴んだ。