「ちょっと、待って下さい!」
確かに聞きたいことは沢山あるし、リップも返して貰いたいけど――。
こんな黒のリクルートスーツに、丸眼鏡のぼさぼさ頭の私が、御曹司である榊原さんと一緒に中に入るなんて悪目立ちしちゃうだけだ。
中には居れば、お嫁さん候補の受付嬢たちがすぐに挨拶に来るはずだし。
「何?」
「仕事が、もう少し残ってるんです」
上手く説明できずにそう言うと、榊原さんは隣の事務の人を見た。
「あと何分?」
「はい。16:30分までです」
「じゃあ、仕事が終わったら迎えにくるか。じゃあ、これ」
榊原さんは受け取らなかった紙袋からバッジを取り出すと私の胸元に付けてくれた。
「色々と話したいことがあるからさ、逃げんなよ」
長くてごつごつした関節の指で、丁寧にバッジを付けてくれた。
思わず見とれてしまうような綺麗な指先だった。
「不破さんって新さんの知り合いだったんですね」
同じ受付の鈴木さんも私なんかが新さんと話していて驚きをかくせないみたい。



