自分と生活水準が違うのに、驕ることもなく、私を馬鹿にするでもなく、認めてくれようとした二人。
私の才能を認めて、手の甲に口づけをしてくれた新さん。
ピアノの演奏の後、世界の色を鮮やかにしてくれた紡さん。
あの時、見上げた星空からゆっくりと降りて来ていた気持ちを、私はやっとさっき自覚して、そして自分でも分からないうちに落としてしまった。
でも、歓迎会の時に助けてくれたのは新さん。
あの時私を抱き抱えて運んでくれたのは、きっと新さんだ。
間違いない。
いつも隣に居てくれたのは新さんだった。
反射的に液晶を下にしていたスマホをひっくり返して通話ボタンを押した。
「もしもし」
『やっと出た。無事に帰れたのか? 塚本事務長がお前が駅に戻って来ないって終電ぎりぎりまで待っててくれたそうだぞ』
「え……。先に帰って下さいっていったのに」
『俺の会社に、足を怪我した部下を置いて行く奴なんているか』
はっきりとそう言われたら、じわりと可愛くない気持ちが広がる。
私を置いてさっさと行ってしまいそうな受付嬢なら沢山いそうだけど。