「大丈夫です! こんな怪我なんてハンカチで抑えてればすぐに良くなりますので」
すぐにポケットに手をいれて探ると、エレベーターが開いた。
「副社長おはようござまへ!?」
「おはようございます。お土産を給湯室の冷蔵庫に入れておいたから皆で食べて下さい」
「ああ、あ、ありがとうございます」
副社長さんがにこやかに笑っているけど、乗り込もうとしていた男性社員は明らかに動揺していた。
副社長という肩書の人が跪いて、女の子の足を持ち上げているんだから。
「もう、本当に大丈夫なので、ありがとうございました!」
「ああ、待って下さい」
のんびり言われたから振り払うのは簡単だった。
何階で降りたのか分からないけど、ただただひたすらに階段を下りて行く。
「おーい、ハンカチ落としたよ」
またのんびりそう言われ振り返ると、副社長は追いかけて来ては居なかった。
ただ、階段の上から私のハンカチを掲げて笑顔だ。
「投げてくださ――」
そう言おうとして、固まった。
「おい、紡、あいつを捕まえろ」
「男の命令なんか聞きたくないね」
弟の、怖い方が階段の上から息を切らして私を見下ろしている。
「そのハンカチも、良く見て見ろよ」
「――ああ!」
今度は副社長も大きな声を出す。
「ちょっと、君、そこから動かないで。俺はずっと君を探していたんだ」



