紡さんがそう言うならば……良いのだけれど。
「早く帰って部屋の掃除された方が良いのでは?」
「はは。新に聞いた? あいつは潔癖だからなぁ。困りました」
そう言いつつ、隣に寄り添うように歩き出す。
「紡さん、こっちは改札ですが」
「酔ってもう歩きたくないなって」
「ひっ」
それって酔ったふりをした女性が言う台詞じゃないの。
一瞬怯んだけど、私は首を振る。
「タクシー乗り場まで案内します」
「君の部屋にお邪魔しようかな」
「こ、困りますっ」
洗濯物が室内に干しっぱなしなのだから、あんな豪邸に住んでいる人なんかに見せられるわけない。
「――婚約者でしょ?」
「ふりです! 偽者です!」
肩まで抱こうと引き寄せられたので抵抗したら、ちょうど反対側の電車のドアが閉まった。
――あ。
何気なく振り返って見た電車の、同じく振り返ってこちらを見ている人と目がばっちり合った。
麻里亜さんだ。
麻里亜さんで間違いなかった。



