店を出るころには、すっかり夜の風が街を覆い尽くしていた。
真っ赤な薔薇の花束を肩に担いで、ほろ酔い気分の紡さんと大通りのタクシーが拾える場所まで歩く。
もう当たりは酔っ払いが多く、ざわめきだしている。
あれから、ピアニストへ送られるはずだった真っ赤な薔薇の花束を紡さんが傅いて私に差し出した。
ここまで周りに期待されて受け取らないという選択肢が出来なかった私の不甲斐なさは置き去りに、お店からは特別メニューが運ばれ周りからは拍手喝采の中食事をした。
美味しいと言われた生ハムなんて味が全く分からなかった。
「紡さん、ピアノなんて弾けたのですね」
「ああ。取り合えず自分に出来そうなものは粗方取得してますよ。知識や技術は身に付けていて損はないから」
「あんなプロ顔負けの演奏ができるなんて」
今まで特にピアノが得意だと言わなかったってことは、きっと紡さんにとって何気ない技術の一つで鼻にかける必要もないってことだ。



