「あ、そこに座って」
そう言ってベッドの隣にある椅子を指さす。
「うん、あ、これ、近所のケーキ屋さんの奴なんだけど、冷蔵庫入れていい?」
あたしがそう言うと中野さんは嬉しそうに笑う。
「ありがと!あたし甘いもの大好きなんだ!」
その笑顔にあたしは少し緊張が解けた。
しばらく他愛のない話をして、そろそろ帰ろうかと思ってた頃。
「七海さん、あのね」
中野さんが口を開いた。
「この怪我は自分の力不足だから。だから七海さんは本当に気にしないでね」
そう言ってあたしを見た。
「あたしは…もう空手はできないけど…」
中野さんの目から涙が出てくる。
「七海さんはこれからもあたしの一番のライバルだから」
そう言われてあたしの目からも次々と涙があふれる。
「ヒッ、ヒック、う、うん。あり…がっとう」
当分、2人で泣き続けた。
中野さんは本当に強い人だと思った。
でも…あたしは弱い人間だった。

