「お前と初めて会ってからもう10年か」
隣で桑原さんがそう言う。
「…早いっすね」
本当に早い。目をつぶればあの事件のことをすぐに思い出す。
でももう10年も前の話。
「あ、勝手に彼女にお前の話した。すまん」
そう言う桑原さんを見て、本気で謝ってないのはすぐわかる。
「いや、話してくれて良かった」
俺は遠くで散歩している親子を見つめた。
お母さんに2人の子供がくっついて歩いてる。
まるで母さんと兄貴と俺みたいだ。
「彼女、泣いてたぞ」
桑原さんがそう言ったのに俺はびっくりした。
「え?」
「お前らの話したら、泣いてた」
そう言って俺を見る。
「…いい子だな」
そう言ってニッと笑った。
桑原さんはいつも怖い顔だけど、たまにこうやって優しく笑う。
「うん、素敵な人。好きすぎて困るっす」
そう言って真子先輩を思い出す。
先輩のことを思うだけで、幸せな気分になれる。
「ははっ!お前のそんな顔が見れて嬉しいよ。さて、俺は仕事に戻るわ」
桑原さんは俺の頭を一度撫でるとベンチから立ち上がって歩き出した。
「ジュース、ごちそうさま!」
桑原さんに向かってそう言うと右手を上げて答えてくれた。
俺も残りのオレンジジュースを飲み干して、家に帰った。

