「真子先輩、顔あげてよ」
肩に暖かい手が置かれたと思ったら上からいつもよりさらに優しい隼人くんの声が聞こえた。
あたしはゆっくりと顔を上げると、隼人くんは微笑んでた。
「…僕、いつか先輩に話そうと思ってたんだ。昔のこと…」
「え?」
そう言うとそっとあたしの手を握った。
その手は少し震えてる。
「先輩には、僕…俺のこと知ってほしかったから。でも昔のこと話して先輩に嫌われたらどうしようって思ってて…」
僕と言った後、俺と言い直してあたしの手をさっきより少し強く握った。
「だって、両親が殺された挙句、俺は不良になって…じいちゃんにも何にもしてあげられなかったから」
そう言って俯く隼人くんを見てたら、体の方が先に動いた。
あたしはそっと隼人くんを抱きしめた。
隼人くんはびっくりしたようで肩が一瞬上がった。
「嫌いになるわけないよ」
隼人くんを抱きしめたままそう言う。
「隼人くんの話聞いて、正直辛かった。でも隼人くんは隼人くんだよ。あたしの知ってる
隼人くんは可愛くて、優しくて、たまに意地悪で。…あたしは今の隼人くんが好きだよ」
あたしが一方的に話すのをじっと聞いていた隼人くん。
でも隼人くんの手が背中に回ってあたしをギュッと抱きしめる。
「…ありがと。そう言ってくれたの、先輩が初めてだよ」
隼人くんの過去は消せない。
でもこれから楽しいことをいっぱい経験して、つらい過去はだんだん薄れていけばいいなと思う。

